街暦 #7
襟草丁(写真)←松本力(文)
襟草丁さん
薄桃色のバラとフローリストの文字、小さな花屋さんにはなにもないのに、いままで誰かがいたような、その誰かをまっているような、停留所か待合室にいる気持ちになる。よくみると「生花は27日(金)入荷致します」とあるから、2日後には花で一杯に、誰かと誰かが待合せしただろう。
写真を撮っている僕をみているトラックの運転手も写っている。いったい、なにをみているのか。僕をみている彼をみている僕は、なにをみているのか。
道路の白線のひび割れから、なにが染み出ているのか、金属の錆なのか。例えば、落雷に射たれた瞬間の雀人間の影がここにとどめられているようにみえた。だから、撮った画角は横だったのに縦になった。例えば、遥か星間の彼方を飛行する巨大な鳥かハンマーヘッドの宇宙生物につかまり運ばれ、太陽系でいえば神秘の惑星木星の衛星エウロパの氷原になにかの溝が縦横無尽に走って、いままでの蔦の季節の軌跡がうっすらと、アド・アストラ、晴れた日に空へとつづく緑の絨毯は星への小径となって、雨の夜に階段をおりてゆく赤い絨毯と対を成して、めにはみえない少女がひとり、よじのぼってゆくのがみえた。
松本力より
街暦
text by Chikara Matsumoto
photo by Tei Erikusa
写真と書簡で往復する #往復写簡
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