往復写簡 #72 (鎌倉にて)
松本力(写真)←襟草丁(文)
松本力さん
椿は首斬り花とも言い、花の根元からぽとりと落ちて散りますが、私には、同じく花弁がはらはら散るではなく「首斬り」的に散るイメージに夏に花期を迎えるノウゼンカズラがあり、ただそのイメージは、ノウゼンカズラを嫌いと言った母の言葉が結びつけたもので、ノウゼンカズラの咲く頃に身内だか近しい人だか亡くなる人が幾人かあったようで、それらを思いだすからノウゼンカズラは嫌いと言い、夏の盛りに、地べたに橙色の染みが散らばる景色を見つけては母の嫌いが脳裏を過ぎり、落花と首斬りと死が連鎖しますが、私は別段ノウゼンカズラを忌み嫌ってはなく寧ろ美しいと眺め、ただこの美しいは死のイメージを孕んだ触れてはならない領域に触れるような美しさなのか、考えたところで私の記憶の文脈によって色をつけられた感情であることは否めず、あッ、と、頭上を通過した影を見上げたら鳥で、あちらの世界と接触する存在として語られる側面を想起しても、繋げた座標の偶然と必然はどうと言うことはない主観で、世界はやはり個に閉じられています。
襟草丁より
text by Tei Erikusa
photo by Chikara Matsumoto
写真と書簡で往復する #往復写簡
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