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往復写簡 #57


襟草丁(写真)←松本力(文)



襟草丁さん


白兎を追え、仮想現実を象徴的主題にした1999年の映画の四作目を観に行ったが、1967年産のぼくの20年をも回想して、二兎を追う者は一兎をも得ずならぬ一兎を得た者は二兎をも追えずなのか、韓非子の説話「守株」を黒い鶩たちがうたう唱歌「待ちぼうけ」の腰かけて溜息ついてる人か、残された切り株の方なのか、ある画廊で展示した時、画廊主とその友人が「作家さんが来なかった?」「ああ、切り株みたいな人?」「そう!」と話した、ずんぐり(stump)と動けないでいる存在の情報は、兎の穴たる、裂け目、割れ目、隙き間から一途に落ちていく、空間に最小単位があって有限なら、特異点の大爆発を通り越して、永遠に過去が続いていくように、みえない鏡の世界の膨張し続ける虚数的未来の断面から考えるなら、買い物に行って駐車場から車を出してくるのを、母が待っている間に買った新聞の一面がメタバースで、博物館の立体模型みたいに地球が平面ならフラットアーサーに、球体ならインナーアーサーになりかける境界に、知らないことを知らないだけで、知っていても知っているだけで、自分が目の当たりにするものを、だれかがそうしたように、この擦過した切り傷を残した鋸とそれを握った手の主と木材になった半身、それぞれの身体がこの瞬間にどのように続いていくのかを、ひみつの切り口をきみが写して、つたえるから。


松本力より


text by Chikara Matsumoto photo by Tei Erikusa 写真と書簡で往復する #往復写簡


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