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往復写簡 #33


襟草丁(写真)←松本力(文)



襟草丁さん


夕暮れは、カレーではなくて、可憐な夕化粧の香りが町に漂う。

遥々と南の国から江戸の町に来たけれど、虫や蝙蝠が少ないから、自家受粉するようになったの?

ごつごつした小さい甕か柘榴みたいな黒い種を、なんだか宝物のように大事にとっておいた。その中に白粉があるなんて。毒があるそうだけど。


母の友人、といっても僕と同い年ぐらいのOさんは、僕より親孝行で、いつも母に贈り物をしてくれる。その彼の母が亡くなられたようで、母に電話をかけてきた。

悩みを打ち明けられる人はいるのかと、母は問う。

「臆病」で「内気」な僕は「恋を疑う」

悩みを隠そうとしてしまうのは、自分で毒を呷るようなものか。


思い出すのは、野生児みたいなとっぽい友達のI君で、公園の花を片っ端から毟っては吸っていた。

「そんなことやめなよ」といったけれど、なにがよくないのかわからなかった。

兎に角、頑なで、漢字の音読みならG君だ。

でも、最後まであきらめない、一矢報いるような、卑屈にも卑怯にもならない少年だった。

彼はいまでもあの家に住んでいるんだろうか。

同級生、同窓生、初恋のあの子も遠くへいって、いまもここにいるのは、僕ぐらいかもしれない。


松本力より


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