往復写簡 #55
襟草丁(写真)←松本力(文)
襟草丁さん
メヒコのリタさんの家での滞在が終わり、あとは空港に向かうという名残惜しい瞬間に、友人たちの車が動きだしてすぐに、リタさんが何か忘れたみたいで部屋に戻って、ヘッドライトに浮かび上がった門の中で待っていたら、足元の石畳の排水口の蓋がなんだか気になって写真に撮って、日本に帰ってから気がついた、色味といい穴の形といい、あれは蓮根の切口と相似形だった。
シルクのハンカチーフに煙草であけた穴から未来がみえるとか、オカルトや民俗学のまじないはいろいろあるけど、孤高の位相多様体、蓮根の気管の断面たる工みな穴からム心にながめている窓を明け放って、自分が自分をみつけるだろうか。
古い開かずの金庫をあけるテレビ番組で、金庫が空だったから「むぅ」と唸った寺のご住職、あれは何も無いことへの洒落だった?
ある金庫には、解錠するためのダイヤルの数字の順番を記した紙片が入っていた。
なにか宝が有るかもと開けるけど、なにも無いことを知るために空けるのかもね。
松本力より
text by Chikara Matsumoto photo by Tei Erikusa 写真と書簡で往復する #往復写簡
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