往復写簡 #65
襟草丁(写真)←松本力(文)
襟草丁さん
床は天井に、天井は床になって成長する高層マンションの唯一の入居者、月から来て月へ帰った旅人が独り滞在した高層ホテルの部屋の灯り。竹筒の牢獄に囚われた絶世の美女が、竹取りを生業とする翁の元に授けられたという設定で、心に思うことを素直にいわない人、かぐや姫と傍観する劇的アイロニーの政治諷刺絵巻。彼女の象徴性を考えると、幻想文学の登場人物が背負わされている宿命と、それを撥ね除ける力が一対になって与えられている。それは自己救済なんて甘い希望じゃなくて、むしろ絶望からくる無知の知で、諸刃の剣となるが、幸福を追求する努力とそれを実践する勇気を持つ、自分のファンタジーでもあると信じつづけたい。
「タケバヤシデチクリンノシチケンニアッタ」もし竹林さんが竹林で竹林の七賢に会ったと電報を送ってきたとしたら。老子と荘子の思想の清談で、そもそも実在したかしないか、大小、美醜、貴賤、生死の是非もない万物斉同の世界の劇中劇みたいな胡蝶の夢で、非日常の充実ぶりも現実だとしても、無為自然への道は遠く。
いや、まって。善悪すらなくても、概ね、よい方へ。
松本力より
text by Chikara Matsumoto photo by Tei Erikusa 写真と書簡で往復する #往復写簡
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