往復写簡 #17
襟草丁(写真)←松本力(文) 襟草丁さん みえないなにかがもやもやとたちのぼってゆく。 富士の、不二の、不死の山の頂で、月の子が残した思い出を燃やす煙は立ち上り、いまでも、その霞がたなびく荒凉とした山肌には、その目撃者である鉄塔の位置に、一本の木の陰影があって。...
往復写簡 #16
松本力(写真)←襟草丁(文) 松本力さん 足元の茂みに螺旋構造のおもしろい花を見つけました。おもしろさをしげしげ眺めていた翌日に偶々その花の名を知り、さらにおもしろさを噛み締めました。 ゴボウの種を蒔いたら、フキが生えてきました。無論フキが生えてくるはずはありません。調べる...
往復写簡 #15
襟草丁(写真)←松本力(文) 襟草丁さん しろいはなひら。 くろいはなひら。 我先の日に、花ひらひらの段差ー。 紫の陽に、端ふらふらのダンサー。 管理された野生の後悔と蜜の味。 甘露で煮た野草の高貴な未知の味。 こんな群青色のスミレの砂糖漬けが好きだった。...
往復写簡 #14
松本力(写真)←襟草丁(文) 松本力さん 非日常的な移動は特に逃避と妄想に拍車をかけます。 耳慣れない地名の響きに惹かれ、いっそ、終点まで乗っていようか脳裏をよぎる誘惑。隣に座った男が実は平行宇宙の住人である可能性を100%にできる想像の自由。...
往復写簡 #13
襟草丁(写真)←松本力(文) 襟草丁さん なつかしい匂いがする。陽のあたる風のなか、空をゆく鳥のこえに。 たとえば、墨国から鳥取に飛んできて、いまは、家で一息つきながら、今日みるものを、明日はもうみることがない、鳥もいた。そもそも、昨日まではどこにいたのだろうか?...
往復写簡 #12
松本力(写真)←襟草丁(文) 松本力さん 実体も概念もすべての存在は、鏡、のようなものではないでしょうか。映すことでわかる。映されることでわかる。嬉しいを通して悲しいがわかる。つまらないを通して楽しいがわかる。ネガティブな感情が厭わしいからと云って、ポジティブな感情だけの世...
往復写簡 #11
襟草丁(写真)←松本力(文) 襟草丁さん 謎が映っているの。 緑の壁に傘が突き刺さしてあるの。緑の床にそれが突っ立っているの。鶴首頭で天地を転置、無用の用と思考を回転させながら、ローリンググリーンズはいつまでも満足できないとうたうの。...
往復写簡 #10
松本力(写真)←襟草丁(文) 松本力さん 市民農園で野菜づくりを始めて久しく、植物という植物が旺盛になるこれからの時期は定期的な草取りが欠かせず、毎年、山羊がいればと思います。可燃ゴミにならず、山羊の腹も満たされ一石二鳥、なのですが。...
往復写簡 #9
襟草丁(写真)←松本力(文) 襟草丁さん 白菜が宇宙になった。 いつかみた、どこかへと立ち漕ぎでいそいでいた女子みたいな、買い物帰りの疾走する自転車の籠から落ちた一菜がぎうぎうと路に押しつけられて、砂利や埃と一体の銀河になった。ある雨の日には、一名がざんざんと路に押しつけら...