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往復写簡 #13


襟草丁(写真)←松本力(文)



襟草丁さん


なつかしい匂いがする。陽のあたる風のなか、空をゆく鳥のこえに。

たとえば、墨国から鳥取に飛んできて、いまは、家で一息つきながら、今日みるものを、明日はもうみることがない、鳥もいた。そもそも、昨日まではどこにいたのだろうか?


ある日、手をかざしながら、空に浮かぶ雲をみた。そこには一葉が浮かんでいた。陽光に照らし出されて、葉一面に毛細血管のような葉脈が浮かび上がった。なんだか、縦横無尽に走る心の路を、行き交う力を空想していた。そういうのは、あったりなかったりする振動で、自分が未来からも過去に迎えにいった、ジグザグと手を結びあい、流れあった形跡なんだろう。

アニメーションを撮影する時も、ライトボックスに絵をのせて、後ろから照らすから、逆光が描きだす線と滲みは、枝分かれしてきた別れ路をなぞって、その記憶が刻まれた溝を走りぬけて、いつかの想いを再生する。

これが、最初に話していた写真。


いつか、道を渡りながら、ぐぐぐと重力を感じて、みえない壁で進めなくなった。なんだか、戻った方がいいような。振り返ったら、銀行から引き出したばかりの大枚入りの封筒が落ちていた。然し、安堵する気持ちをのみこんだ。落としたことに気づいていなかったのに、戻ることができた。横断歩道の先に、暗澹たる日々を送ったか、少なくともそうではなかったかの、分岐がみえた。ああ、いままでも、無数の分岐点にたって、大小様々な決断をしてきたのか、これからも、それをしてゆくのか、気が遠くなりそうだ。最近、顕著になってきたマンデラ・エフェクトの記憶違いに気づいてしまったように。人生は選択の有無に因らず、忘れ得ぬもの忘れ難き人々、失っていなかった想いでが浮かんで、脈々とつながっていったんだろう。


さようならをいって、それからであう、未来からの眼差しを感じていたんだろう。


もう、真夏だね。甘夏は、もう、売っていないけれど。


松本力より


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