町を掘る #3
襟草丁(写真)←松本力(文)
襟草丁さん
少し影がある。
杜子春なら、仙人と出会った次の夕暮れに、西日が落とす自分の頭の影の場所を掘る。
止まれは、急に止まれない。
道路の標示は呪文のように効いていて、車なんか運転しない子どもの頃からのスリル満点の記号論だった。この白線から落ちたらジゴクへ真っ逆さま、このバスに乗れなかったらシヌ、と真摯に莫迦げた挑戦をすることこそ、あの日あの時に振りかける香辛料だった。
いまも、信号機のない横断歩道を堂々と渡ってみせる。
まだ死なないという蓋然性の乏しい推測を実践するのは、
まだ死ねないという合目的性の素敵な確率を信じてみる。
蛍光のように輝く雲を仰ぎ見て、どんな気持ちで居るかは職質はされなかったけれど、パトカーが夕暮れに消えていくのを見送って、結局、夜になるまで町を徘徊していた。
撮ったときは気づかなかったけれど、スポットライトを浴びる三者と三者の、草木の演者たちがいた。彼らの日没後の舞台を観るために、この道を逆にたどって、戻ってきた気さえする。
松本力より
text by Chikara Matsumoto
photo by Tei Erikusa
写真と書簡で往復する #往復写簡
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