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往復写簡 #3


襟草丁(写真)←松本力(文)



襟草丁さん


ブルーブラックな時計が、あと八分で正午を告げた。

十六度の少しひんやりとした室内をボーンときこえない音が伝わってきた。

そして、朝の七時過ぎには、この写真を撮らせてくれたような、八分前に太陽をでた光をみた。


その八分間で、黒猫と寝て、机と居眠りをしていた。

墨国を旅して、リタさんが好きな金物細工の店で求めた八角の鏡に映った顔は、未だ、彼の美しい国に居た時のような表情をしていた。


こんな素敵な、梅模様の鎌倉彫の、漆黒の掛け時計があったら、身中に反復した、より有機的な律動を胸に刻んでいただろう。

本当は、後先なんかなくて、曖昧な目に映った景色は、熱い山の熱量の増減を正しくとらえることができなかっただけだ。

きみがみたものを、ぼくはみたことがなかった。それでも、かまわなかった。

写された時間は、ただ、無を刻みつづけていた。この意識は、ただ、その記しを憶っていた。

そのことを告げたから、彼の時は蒼ざめていたんだろう。


松本力より

text by Chikara Matsumoto photo by Tei Erikusa 写真と書簡で往復する #往復写簡


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