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往復写簡 #18


松本力(写真)←襟草丁(文)



松本力さん


存在や世界について問えば問うほど、曖昧さに拍車がかかり、宵のグラデーションのように蒸発してゆくようです。わたくしという背景が認識している景色は、解釈は、真実とも嘘とも言い切れず、ただ世界はそこにあって、ただ世界はそこにはないと言わざるを得ず、さらに曖昧になって蒸発してゆきます。

さまざまの書物は、確かに、活字としてそこに存在しますが、わたしが読んだこの物語と、だれかが読んだこの物語と、わたしが未来にまたこの物語を読んだとして、未来にわたしが読むこの物語は同じとは言えず、つまり、等身大の個が活字を通して思索する世界に過ぎず、では果たして、そもそもこの物語は存在するのでしょうか。

足の裏に伝わる床の冷たさも、湯呑みから立ち上る湯気も、わたくしという知覚に葬られます。常に。


目印は増殖し続け、太古の昔からの目印はよりシンボリックになりました。定点観測するには自分だけの目印を探すに限りますね。


襟草丁より


text by Tei Erikusa photo by Chikara Matsumoto 写真と書簡で往復する #往復写簡


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