雲と少女, The clouds and a girl.
いつまでもそっと心に残る本の一説がある。
家の蔵書に、山と渓谷社の「カラー 雲」というガイドブックがあって、新田次郎氏の随想が美しい空の写真とともに載っている。
題名は「雲と少女」で、鎌倉の海辺で、或る少女との切なくて哀しい邂逅が語られている。空を見上げている人の心が、雲居にまで届いて、「ぽかっ、ぽかっと」浮かび上がり、忘れ得ぬものにしているのだろう。
「美しく生れて美しく死んでいく雲は本当にうらやましいわ」
「雲に一生があるのですか」
「あるわ、5分か10分のような短い一生もあるし、積乱雲のように、生れてから死ぬまでに10時間もかかるのもあるわ」
雲気に人の心のかたちが映って、それが流れていくのを見上げてながめているのは、空から自分をみるようなものかもしれない。