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往復写簡 #31


襟草丁(写真)←松本力(文)



襟草丁さん


母が若い頃、庭に桃の木が1本あって、その実は先が尖っていて、いまでも忘れられないぐらい、美味しかったとのこと。それは、たぶん、中国の「毛毛(もも)」で、昔話の桃太郎に描かれているような、孫悟空がぬすみぐいした蟠桃園の仙果…ではないだろうけれど、中国の空には龍や鳳凰が飛んでいるのが写真に撮られているから、一羽の鳥が蟠桃を丸ごとのみこんで不死鳥となり、紆余曲折を経て、家の庭に実を結んだとしても不思議はないかも。

そんな素敵な桃を食べていたなんて、信じられないぐらい。

その果皮は美しい獣の産毛、ヴェルヴェットみたいなんて、信じられないぐらい。


水蜜桃がひとつあるだけで、芳しい香りが漂い、なんとはなしの多幸感がある。

たぶん、小豆なんかもそう、古来の桃の霊的な力の名残がある、大袈裟かな。

いや、未確認の霊気が、夜明けの空の濃淡の推移のような色の瑞々しさという感覚質として、いまもあるのかも。


松本力より


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