往復写簡 #36
松本力(写真)←襟草丁(文) 松本力さん 矢印は古典的なユニバーサルデザインと思われ、不思議な力を持っています。 かなり過去の出来事。パウル・クレーの展覧会へ出かけ矢印が描かれた作品を見て、当時もやもやとした「気もち」を抱えていた私は、なにか、その矢印に導かれるような感覚に...
往復写簡 #35
襟草丁(写真)←松本力(文) 襟草丁さん 地にあって、どうして、空にはないものか。 砂利と石灰と水で箱や棒を型取り、線を真っ直ぐ引く。 電氣は火離火離と奔り、風は飛等飛等と螺子れ、 水雫は付和付和と割く、虚大な渦天を。 何もないのに、徴があるような、左様ならを告げる二つの眼...
往復写簡 #34
松本力(写真)←襟草丁(文) 松本力さん 彼女は鳥が嫌いです。特に鳩への嫌悪感は酷く、姿を見つけた瞬間に彼女の目は泳ぎ、その場から一目散に逃げ出します。動物園では鳥類エリアに近寄らず、テレビ番組で鳥の映像が流れるとチャンネルを変えます。私ですら恐怖するヒッチコックの映画「鳥...
往復写簡 #33
襟草丁(写真)←松本力(文) 襟草丁さん 夕暮れは、カレーではなくて、可憐な夕化粧の香りが町に漂う。 遥々と南の国から江戸の町に来たけれど、虫や蝙蝠が少ないから、自家受粉するようになったの? ごつごつした小さい甕か柘榴みたいな黒い種を、なんだか宝物のように大事にとっておいた...
往復写簡 #32
松本力(写真)←襟草丁(文) 松本力さん どうしたら自転車に乗れるのか、説明は難しい。というか、説明できません。動作としての説明はできますが、あの全体的に平べったい様々なパーツが組み合わされた器具の、ハンドルを掴んでサドルに座ってペダルを漕いで車輪を回転させて、しかしどうバ...
往復写簡 #31
襟草丁(写真)←松本力(文) 襟草丁さん 母が若い頃、庭に桃の木が1本あって、その実は先が尖っていて、いまでも忘れられないぐらい、美味しかったとのこと。それは、たぶん、中国の「毛毛(もも)」で、昔話の桃太郎に描かれているような、孫悟空がぬすみぐいした蟠桃園の仙果…ではないだ...
往復写簡 #30
松本力(写真)←襟草丁(文) 松本力さん いつの時代も表現は受け手に様々に解釈されます。世界一短い文学もまた然り。ただ同時に、普遍性と汎用性を含有しています。ある単語が持つ背景を連綿と受け継ぎつつ、その単語が内包する意味の力を借りて文学する。それは他者とイメージを共有するツ...
往復写簡 #29
襟草丁(写真)←松本力(文) 襟草丁さん 道は未知に、石は意志に通ずるかな。 梨は無しに通ずるといって、ありの実と言い換える、言霊思想の言挙げのように、「何もないのではなく何かがある」「みえるものなかにみえないものがある」と、互いのまなざしと意志を明示することで、不思議な心...
往復写簡 #28
松本力(写真)←襟草丁(文) 松本力さん もういいかい。まあだだよ。 あの子がほしい。あの子じゃわからん。 そうだんしよう。そうしよう。 幼い頃のあそびは切なく、あの切なさはきっと私の中の劣等感で、死ぬまで眠ったり目覚めたりを繰り返す劣等感なのだと、今でも感じています。...
往復写簡 #27
襟草丁(写真)←松本力(文) 襟草丁さん あの、芭蕉翁の後ろ姿か。 仰ぎみる、後ろ頭に、光が一筋、のぼってゆくか。 深川の八貧とか、説明板をみて感心をして、振り返って、ていさんに「芭蕉庵はこんなにもたくさん描かれていたんだね!」と話しかけたら、閉園時間でぼくが帰るのを待って...